「肌のゴールデンタイムは22時から2時」——美容の話題でよく耳にするこの言葉、実は医学的には少し不正確だということをご存じでしょうか。この記事では、睡眠と肌の関係について、研究で分かっていることを整理します。
この記事の要点
- 成長ホルモンの分泌は、「何時に寝るか」ではなく「入眠後にどれだけ深く眠れるか」と結びついていることが、古典的な実験で示されています。
- 睡眠の質が悪い人は、肌のバリア機能の回復力や見た目の老化スコアに差があったという研究報告があります。
- 強い睡眠不足の状態は、第三者から見た「疲れて見える」「魅力的に見えない」という印象に影響することが実験で示されています。
「22時〜2時が肌のゴールデンタイム」は都市伝説?
「肌のゴールデンタイム」という言葉は、美容業界を中心に長年語られてきました。しかし、この「22時から2時」という時間帯そのものに科学的根拠があるわけではありません。
そのカギを握るのが成長ホルモンです。成長ホルモンには肌の新陳代謝を助ける働きがあるとされていますが、その分泌は「時計の上の特定の時刻」に支配されているわけではなく、「睡眠そのもの」、特に深い眠り(徐波睡眠)と強く結びついていることが分かっています。
成長ホルモンは「時刻」ではなく「深い眠り」で分泌される
1969年に発表された古典的な実験では、被験者の睡眠・覚醒サイクルを12時間反転させる、という大胆な方法で検証が行われました。もし成長ホルモンの分泌が体内時計によって特定の時刻に固定されているなら、睡眠時間をずらしても分泌のタイミングは変わらないはずです。しかし実際には、睡眠・覚醒サイクルを反転させると、成長ホルモンの分泌パターンもそれに伴って反転しました。
つまり、22時に寝ても眠りが浅ければ成長ホルモンはあまり分泌されず、逆に深夜2時に寝ても、入眠後すぐに深い眠りに入れれば、成長ホルモンはきちんと分泌されるということです。重要なのは「何時に寝るか」ではなく、「入眠後の最初の深い睡眠をどれだけ確保できるか」だと言えます。
睡眠の質と肌のバリア機能・老化の関連
では、実際に睡眠の質と肌の状態には関連があるのでしょうか。2015年に発表された研究では、30〜49歳の健康な女性60名を、睡眠の質が悪いグループ(睡眠時間5時間以下など)と、質の良いグループ(睡眠時間7〜9時間など)に分けて肌の状態を比較しました。
その結果、睡眠の質が悪いグループは、肌の水分保持力に関わるバリア機能の指標が有意に低下しており、肌に軽い刺激を与えた後の回復力も、質の良いグループと比べて30%低いという結果が出ました。また、見た目の老化度を評価するスコアも、睡眠の質が悪いグループで高い傾向が見られました。
ただし、これは60名という比較的小規模な研究で、対象は白人女性に限られています。また、「睡眠が悪いから肌が老化した」のか、「もともと肌の悩みがストレスとなって睡眠の質が下がった」のか、この研究だけでは因果の向きを完全には切り分けられない点にも注意が必要です。
寝不足の顔は、他人からどう見える?
睡眠不足が見た目の印象に与える影響を調べた、通称「Beauty Sleep(美容睡眠)」研究も知られています。この研究では、健康な成人23名を、通常の睡眠(8時間)をとった後と、31時間にわたる断続的な覚醒を含む睡眠不足の状態の後の2回撮影し、その写真を65名の第三者に評価してもらいました。
結果、睡眠不足の状態で撮影された写真は、通常の睡眠後の写真と比べて「より疲れて見える」「より魅力的でない」「より不健康に見える」と評価されました。ただしこれは31時間の断眠という、日常生活ではあまり起こらない極端な条件での結果です。一晩の軽い寝不足でも同じ変化が起こるかどうかは、この研究だけでは分かりません。
期待できる可能性があること
「何時に寝るか」にこだわりすぎるよりも、入眠後にしっかり深く眠れる環境を整えること(就寝前のスマホ、入浴、寝室環境の見直しなど)の方が、肌の観点からも理にかなっていると言えそうです。
まだ分かっていないこと・研究の限界
- 睡眠の質と肌老化の関連を示した研究は横断研究であり、因果関係を完全に証明したものではありません
- Beauty sleep研究は31時間断眠という極端な条件下のもので、日常的な軽い寝不足での影響は分かっていません
- いずれの研究も比較的小規模で、対象の人種・年齢が限定されており、日本人全般に当てはまるかどうかは今後の研究が必要です
注意点
肌荒れが長期間続く場合や、急激な変化がある場合は、睡眠だけが原因とは限りません。皮膚科などの専門家に相談することをおすすめします。
肌をサポートするアイテムを選ぶときの視点
スキンケア用品、サプリメント、寝具など、肌をサポートするとうたうアイテムは数多くあります。選ぶ際は、以下の観点で確認すると失敗しにくくなります。
- どんな肌悩み(乾燥、ハリ不足など)に向いているか
- メリットだけでなくデメリット・注意点も書かれているか
- 「これだけで肌が生まれ変わる」など断定的な効果をうたっていないか
- 価格・購入方法・解約条件などが明確か
まとめ
「肌のゴールデンタイムは22時から2時」という言葉は、成長ホルモンの分泌メカニズムの研究からは支持されません。大切なのは時刻そのものより、入眠後にしっかり深く眠れているかどうかです。睡眠の質と肌の状態に関連があることを示す研究もあるので、就寝時刻を気にしすぎるより、質の良い睡眠環境づくりに目を向けてみるのがおすすめです。
参考文献
- Sassin JF, Parker DC, Mace JW, Gotlin RW, Johnson LC, Rossman LG. Human growth hormone release: relation to slow-wave sleep and sleep-waking cycles. Science. 1969;165(3892):513-515.
- Oyetakin-White P, Suggs A, Koo B, Matsui MS, Yarosh D, Cooper KD, Baron ED. Does poor sleep quality affect skin ageing? Clinical and Experimental Dermatology. 2015;40(1):17-22.
- Axelsson J, Sundelin T, Ingre M, Van Someren EJW, Olsson A, Lekander M. Beauty sleep: experimental study on the perceived health and attractiveness of sleep deprived people. BMJ. 2010;341:c6614.
